『医療廃棄物の非焼却処理技術』翻訳版 | ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議

『医療廃棄物の非焼却処理技術』翻訳版

『医療廃棄物の非焼却処理技術:アメリカ版およびヨーロッパ版』の翻訳に当たって

米国発の国際的な環境NGOである、『害のない医療をHealth Care Without Harm:以下HCWH』(ホームページアドレス:http://www.noharm.org)は、医療器材からの内分泌撹乱物質である、フタル酸エステル類の溶出に基づいた塩ビ製医療器材の代替運動を始め、医療廃棄物の焼却処理によるダイオキシン類等の難分解性有機汚染物質(POPs)や重金属類など、有害物質の排出を回避するための非焼却啓発活動まで、医療に関わるさまざまな環境や健康に影響する問題について、その活動の輪を拡大しています。
本書は、HCWHが医療廃棄物の非焼却啓発運動の一環として出版した、『医療廃棄物の非焼却処理技術』の2001年アメリカ版http://www.noharm.org/nonincineration、および2004年ヨーロッパ版http://www.noharm.org/europe/medicalWaste/alternativesの2冊を、翻訳して重複部分等を除き、内容を1本化したものです。医療廃棄物にかかる法規が米国(州によっても異なる)やヨーロッパ諸国と、大きく異なる点もありますが、焼却処理によって一般の廃棄物よりも大量の有害物質を生成・排出するおそれがある医療廃棄物について、非焼却・代替処理を進めようという実質的な技術情報の収集と発信は、わが国においても有用であると考え、翻訳を進めてきました。
安易な焼却に頼ると、廃棄物の減量・分別といった意欲を喪失させ、廃棄物の発生を抑えるインセンティブが働かないという機序は、医療廃棄物に関しても全く同じことが言えます。また、焼却炉がいかに改善されたとは言え、常時監視システムは現在のところ、わが国では普及しておらず、ダイオキシン類など年に数回の測定だけでは、実際の排出量を把握しきれないことが指摘されています。
さらにわが国の廃棄物焼却炉規制の重大な欠陥として、重金属類の排ガス基準が全くないことが挙げられますが、欧米ではすでに重金属類排出基準は常識となっています。医療廃棄物などは水銀や低レベル放射性廃棄物、化学療法剤などの混入のおそれの大きいことが特徴であり、分別のインセンティブのないまま大雑把に焼却処理に回す場合、有害物質が確実に分別され適正処理されているという保証はありません。つまり医療廃棄物の焼却大国であるわが国では、その焼却によって少なくとも水銀などの重金属も野放しで排出されているということです。近時のダイオキシン類だけに着眼した高温焼却が主流となった今、重金属の排ガスへの移行の増大は特に強く懸念されています。
本書は、医療廃棄物を代替処理する以前に、廃棄物の種類や流れ、量といったパラメーターのリサーチを始めとする、医療施設全体で分別・減量計画を立て実行することを強くし勧めており、この点がきわめて重要です。
感染性廃棄物に関しては、わが国でも2004年3月に、廃棄物処理法に基づく新たな処理マニュアルが発表されましたが、感染性を除去した後も、最終処分においては非感染性廃棄物と異なる扱いをしなければならないという点が、米国などの法規とは異なります。しかしながら、先にも述べたように、発生源での減量、分別といった手法を駆使すれば、実際に処理費用はわが国でも大幅に削減でき、医療施設にとっても朗報となるでしょう。
なお、2001年のアメリカ版には中温度熱処理および高温度熱処理技術が記述されていましたが、HCWH等のその後の調査で、これらの技術は焼却に匹敵する有害物質排出などの問題点が確認されたため、2004年ヨーロッパ版からは『これらの技術を支持しない』として削除されています。従ってアメリカ版の訳もこれらの技術に関する記述を削除しました。
ただしHCWHも本書の中で繰り返し述べているように、医療廃棄物の最適な処理技術というものはありません。また例えば、クロイツフェルド・ヤコブ病の病原体であるプリオンの完全不活化には、焼却か特定の薬剤処理が必要であり、他の病原体にも処理基準のあるものがあります。しかしながら、ここで最も重要なのは廃棄物の分別と最小化であり、それぞれの廃棄物の特性に合わせて、きめ細かに処理方法を選択することであるという点を重ねて強調したいと思います。
本書の中のいかなる特定の技術に関しても、HCWHが支持しているとは述べておらず、翻訳に当たったダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議も同様に、特定の技術の推薦や擁護は一切しないことを再確認しておきます。各施設がそのニーズにより責任を持って調査し、メーカーによる最新の情報を以って機種の選定を行なってほしいと思います。
翻訳スタッフ一同、本書が医療廃棄物の非焼却処理技術を選定する上での一助となり、医療廃棄物処理による環境影響の低減につながることを望んでいます。

2006年4月
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
『非焼却』翻訳チーム:河登一郎、橘高真佐美、高木佐基子、山田久美子(山田記)

<付記>

  • 各章の注について、アメリカ版とヨーロッパ版の交錯するする章においては、アメリカ版からの記述に関するものにはA注○、ヨーロッパ版からのものにはE注○と記した。また番号は翻訳文中での通し番号ではなく、原版中の整理番号に対応するよう訳した。そのため、注の番号が不連続な部分もある。
  • 文中の度量衡に関するほぼすべての記述は、わが国で採用されているメートル法に統一し、それぞれ有効数字を取って換算し翻訳したため、訳文中の数値はおよその値である。
  • 廃棄物削減に関する書籍等はアメリカ版原本の5ページを、その他の関連文献や推薦図書に関しては、同第12章を参照のこと。
  • 翻訳にあたって、京都大学環境保全センター教授の酒井伸一先生に、一部ご指導をいただく光栄に浴したが、訳語、削除部分、注釈等の適否に関する責任は、一切が訳者にある。

以 上

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