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STOP!環境ホルモン―赤ちゃんが危ない―

いま環境ホルモンは

胎児期の環境が成人後の病気の要因に

肥満や糖尿病、心疾患などの病気の起源は、
母親の低栄養やストレス、環境ホルモンのばく露にあった。

胎児期の環境と病気の関係

 第二次世界大戦末期の1944年冬、ドイツ支配下のオランダでは厳しい食糧難によって約2万人が餓死する事態に陥りました。そのときに生まれた子どもたちの追跡調査では、成人後に糖尿病や高血圧、脂質異常、心疾患、脳梗塞を多く発症していることがわかりました。胎児期の栄養不足や母親のストレスが、乳幼児期の健康状態だけでなく、成人後の生活習慣病の発症にも影響を及ぼしていることが明らかになりました。
 生活習慣病の原因は、食べ過ぎや運動不足といった生活習慣だけではなく、胎児期や乳児期の環境にもよるという学説*1が1986年に英国のバー
カー教授によって提唱されています。英国や米国の疫学調査でも、乳児死亡率や出生時の低体重児の多い地域ほど肥満や糖尿病、脳梗塞、心疾患の罹患率が高いという相関関係が示されています。

環境ホルモンのばく露も発症の一要因

 詳しいメカニズムの解明は始まったばかりですが、生活習慣病の発症に影響を与える胎児期の環境要因には、環境ホルモンのばく露も含まれることがわかってきました。
 1個の受精卵が分化して体の各組織や器官を形成する過程には、ホルモンの制御が大きく関与しています。その時期に環境ホルモンによって正常なホルモンの働きがかく乱されると、組織の発達に変化が生じ、ライフステージで生活習慣病をはじめとするさまざまな疾患を発症すると考えられています。
 もともと体の中の60兆個ともいわれる細胞はまったく同じ遺伝子を持っていますが、胎児期の適切なタイミングで、心臓は心臓、目は目、神経は神経と特殊な機能を持った細胞や組織に分化します。そのときには、余計な遺伝子が働かないように遺伝子発現のスイッチをオフにする仕組みが働いています。それはまさにエピジェネティクス*2の働き(遺伝子DNAの配列によらない遺伝子制御)といえます。
 その遺伝子発現のオン/オフに環境ホルモンが影響を与えることがわかってきました。遺伝子発現のオン/オフの異常(エピジェネティックな変異)は、成長後に病気などを引き起こす可能性があります。環境ホルモンであるヒ素に汚染された水をマウスに飲ませた実験では、マウスの発がん抑制遺伝子のスイッチがオフになり、がんを発症しました。

胎児期の環境とその後の病気

環境ホルモンの影響は次世代にも

 従来、遺伝病は生殖細胞の遺伝子DNA変異が次世代に伝わるものと考えられてきました。しかしDNA変異がなくても、エピジェネティックな変異が次世代に伝わり病気を起こすことが、最近の研究で示されました*3。
 男性ホルモン阻害作用のある農薬ビンクロゾリンを胎児の生殖器官の性別が変化するタイミングで母ラットに投与した実験では、生まれたオスの仔ラットに精巣の異常や精子数の減少などの影響が出ました。そして、それらの影響がその孫やひ孫にまで現れたのです。精子や卵子などの生殖細胞にエピジェネティックな変異が起きた場合、その影響は少なくともその後3世代にまで受け継がれる可能性があります。
 その後の実験で、オスだけでなくメスでも卵巣のエピジェネティックな変異が次世代にまで及ぶこと、また生殖機能への影響だけでなくがんや肝機能障害などの疾病も次世代につながることがわかりました。
*1…成人病胎児期発症起源説(DOHaD)
*2…仲野徹『エピジェネティクス』岩波新書、2014年
*3…Skinner MK et al. BMC Med 2014; 12.

エピジェネティックな変異 環境ホルモンの影響で、遺伝子発現のオン/オフに変化が起こると、遺伝子がまったく同じ一卵性双生児でも、がんなどの病気の発症リスクが変わる場合があります。