深刻な日本のPFAS汚染
環境省はPFOSとPFOAを全国で検出
環境省は化学物質の環境中の存在をモニタリング調査しています(化学物質環境実態調査)。PFOSとPFOAは、2002年度に初めて水質調査が行われ、全国20地点全てで検出されました。PFOSは最大24ng/L、幾何平均が1.4ng/L、PFOAは最大100ng/L、幾何平均が3.8ng/Lでした。
その後、2009年度からモニタリング調査が毎年継続され、2019年度まで全ての地点で検出されています。規制の早かったPFOSは減少傾向にありますが、これから規制が始まるPFOAは横ばいから減少傾向に向かっている程度です。この調査では、底質、生物、大気についてもモニタリング調査していて、全ての地点で検出されています。
2019年度、環境省は緊急全国調査を実施し、171地点のほぼ全ての地点で、PFOS、PFOAが検出されました。千葉県、東京都、大阪、沖縄などの37地点で、暫定的な指針値(PFOSとPFOAの合計50ng/L)を超え、高濃度に検出されました。
安威川(大阪府)におけるPFOA汚染
2003年、京都大の調査では、北海道から九州まで約80か所の河川水を調査した結果、全地点でPFOAを検出しました。兵庫県の猪名川で456ng/L、大阪市の淀川で140ng/L、淀川支流の安威川にある下水処理場周辺では6万7000〜8万7000ng/Lと高濃度でした。さらに、安威川近くの大阪市内で二つの井戸から、8300ng/Lと5万7000ng/LのPFOAを検出し、地下水汚染が広がっていることが示唆されました。
これを受けて、2007年から大阪府と大阪市が汚染源等を調査し、ダイキン工業淀川製作所がフッ素樹脂製造のためにPFOAを添加剤と使用しており、工場排水は下水道に流していること、下水処理場では分解されず、放流水が安威川に流入したためであることがわかりました。なお、同社は2006年に米国環境保護庁(EPA)とPFOA管理計画を締結し、使用量の削減に努め、2015年にはPFOAの使用を中止しました。
現在、下水処理場への排出はなくなりましたが、工場周辺の浅井戸が汚染されているため、ダイキン工業が浄化処理を継続しています。かなり減少しましたが、まだまだ高いレベルで地下水汚染は継続しています。
最も深刻な沖縄のPFAS汚染
2011年のジョン・ミッチェル氏の「1960年代密かに枯葉剤(オレンジ剤)が米軍基地に持ち込まれていた」という調査報道がきっかけに、米軍基地による環境汚染が注目され始めました。2013年度から開始された沖縄県企業局の調査で、嘉手納基地内と周辺の水道水源の湧水、井戸、河川でPFOSとPFOAの汚染が明らかになりました。沖縄では市民グループが環境汚染の実態を調査し、適切な対応の実施を求める活動を開始しています。
沖縄県企業局が上水道の原水と浄水を測定した結果、2013年度から2018年度まで、PFOSとPFOAの合計値の最大が1回でも米国EPAの飲料水水質基準(生涯健康勧告値)である70ng/Lを超えた地点は、3か所ありました。
2016年度から沖縄県は普天間基地周辺の詳細調査を実施しています。普天間基地の北側では河川と地下水のPFOSとPFOAの合計値が米国EPAの基準70ng/Lを超えており、年々汚染範囲が拡大しています。日本政府は米軍に対し立ち入り調査を要望していますが、米軍は日米地位協定をもとに拒否し続けているので、汚染源の特定ができません。
2020年4月には、普天間基地内で使用された大量の泡消火剤が漏出し、基地周辺の住宅街に散乱するという事故が起きています。8月には米軍が独断で、PFOS処理水を河川に放流するなど、深刻な事態が継続しています。
東京多摩地域の水道水と人体汚染
現在進行形のPFASによる地下水や水道水の汚染は沖縄だけではありません。
東京都水道局は、2005年ごろから多摩地域の地下水を水源とする水道水の水質測定を実施し、PFOS、PFOAの高濃度の汚染を確認していましたが、公表していませんでした。JEPAが東京都から情報公開で入手した水質検査結果から、2011年時点で、多摩地域一帯で広範囲に地下水がPFOSとPFOAで汚染されていたことがわかりました。米国で水質基準値が70ng/Lに引き下げられた2016年からは、PFOS、PFOAに加えて、その代替物質であるPFHxSなど11物質の詳細な調査を継続し、深刻な汚染実態を把握していたことがわかりました。しかし、汚染地域の住民に知らされることはありませんでした。
2020年4月からは、日本でも水道水質の管理目標値(PFOSとPFOAの合計値50ng/L〈暫定〉)の設定により、対策を迫られることになりました。その結果、汚染地下水を水道水源として利用していた地域では、水道水質の管理目標値を超過してしまうところも出てきました。そこで、2020年3月末までに、東恋ヶ窪浄水所(国分寺市)では井戸水の汲み上げを停止する措置をとっています。国分寺だけでなく、三多摩地域の多数の浄水場では、地下水の汲み上げ量を減らし、利根川・多摩川の表流水の供給割合を増加させて、水道水質の管理目標値を下回るような対策をとっています。
多摩地域住民の血清中PFASの濃度
対照群は4人、国分寺、府中は11人。対照群は環境省2017年の調査結果とほぼ同じ濃度。
バーは平均値、それぞれのドットは実際の値を示す。
*、**は、対照群との間に統計的(T-検定)に有意な差があることを示す。
◆バイオモニタリングの結果
JEPAでは、長年、PFASが混入した水道水を飲用していた多摩地域の住民の健康影響が懸念されることから、東恋ヶ窪浄水所と府中武蔵台浄水所(府中市)の配水地域の住民の血液検査(バイオモニタリング調査)を実施しました。
これらの地域の住民と環境省の化学物質のばく露量調査結果を比較すると、この地域の住民の血清中*2のPFOS濃度は1.5〜2倍、PFOAはやや高め、PFHxSは22〜35倍高いという結果でした。ドイツのバイオモニタリングの基準値と比較すると、緊急に対策を取らなければいけないレベルを超えていることがわかりました。
◆東京都の責任は重大
2020年4月まで水道水質の管理目標値が設定されていなかったとはいえ、東京都水道局は汚染の事実は知っていても、住民への周知や、汚染原因の究明、汚染防止対策などの措置を何ら講じていませんでした。これは、都民の健康と安全を守る水道管理者として問題であると言わざるを得ません。
*2 血清は、血液から血球など凝固成分を除いた液体成分。