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STOP!環境ホルモン―赤ちゃんが危ない―

異変は野生生物から始まった

 「環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)」問題がクローズアップされたきっかけは、野生生物に起きたさまざまな生殖異変でした。北米五大湖では鳥たちにメス化、卵のふ化率低下、メス同士のつがいなどが現れました。日本の海岸ではイボニシ(巻貝)のメスに輸精管・ペニスが形成されるインポセックス(メスのオス化)が見られました。また、米国フロリダのピューマのオスに停留精巣が増加していることがわかっています。鳥や貝に見られた生殖異変は、野生の哺乳類にまで広がっていたのです。しかもその影響は生殖機能だけにとどまらず、化学物質汚染が進んでいる北海では、免疫力低下によるアザラシやイルカなど哺乳類の大量死が起きました。
 原因として疑われたのは、生物のホルモンをかく乱する環境ホルモンでした。私たちの日常生活は無数の化学物質に囲まれており、その中の多くが環境ホルモンです。1996年に米国コルボーン博士らが著したOur Stolen Future(邦訳『奪われし未来』)によって、環境ホルモンは人類の生存をも脅かす大きな問題として世界に提起されました。野生生物も人間もホルモンが作用する仕組みはかなり共通しています。野生生物で起きたことは、いつか人間にも起こる恐れがあるのです。
 1990年代末に世論を騒がした環境ホルモン。あれから15年、日本では関心が薄れていますが、欧米ではますます研究が進展し、科学的証拠が蓄積されています。目下、EU(欧州連合)では環境ホルモン規制が始まろうとしています。2002年、WHO(世界保健機関)/IPCS(国際化学物質安全プログラム)が環境ホルモン問題に関する総合的評価報告書*1を出し、10年後には、WHO/UNEP(国連環境計画)がその後の科学的進展を精査した報告書*2をまとめました。科学的に因果関係を完全に証明することは難しいのですが、野生生物に起きた生殖異変と環境ホルモンとの関連はもはや疑いようがありません。
 化学物質には、例えばDDTやPCBのように環境中で長い間分解されずに残留し続ける物質もあります。そのような物質が、食物連鎖を通じて生態系ピラミッド上位の生物に高濃度に濃縮されます。生態系の頂点に位置する人間に最も大きな影響を及ぼすのです。

*1…WHO/IPCS:Global assessment of the state-of-the-science of endocrine disruptors(内分泌かく乱化学物質の科学的現状に関する全地球規模での評価)2002年

*2…WHO/UNEP:State of Science of Endocrine Disrupting Chemicals-2012(内分泌かく乱化学物質の科学の現状2012年度版)