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東京多摩地域住民のPFAS(有機フッ素化合物)血液検査(2020年8月)

何が問題か

 近年、有機フッ素化合物(PFAS)による地下水・水道水汚染が問題になっています。日本では、特に沖縄で米軍基地での泡消火剤由来と疑われる地下水・水道水へ汚染が注目されています。同様の汚染が東京の多摩地域の一部の地下水にも見つかっています。東京都水道局は2005年ごろから汚染が疑われる多摩地域の地下水を水源とする水道水の水質測定を実施していました。そこでは2020年4月に厚労省が定めた水道水中の管理目標値(50ng/L)をはるかに超える値が出ていました。

 特に汚染度の高かったのが国分寺市の東恋ヶ窪浄水所と府中市の武蔵台浄水所です。東京都水道局は、2020年4月までに、これらの浄水所では汚染された井戸からの取水を停止し、他の汚染されていない浄水で薄めることで水道水濃度は目標値以内に管理されていると説明しています。しかし有機フッ素化合物は残留性有機汚染物質であり、一度体内に入った場合、体内の量が半分になるまでの期間は4~8年と長いことが問題です。

 地域住民は長年にわたり高濃度に汚染された水道水を飲み続け来ました。体内にどれくらい蓄積しているのか、健康影響が出ていないのかについての調査は行われていません。

 そこでJEPAでは、熊本学園大学の中地重晴教授の協力の下で、上記2か所の浄水所を使っていた地区の人たちを対象に血液検査を実施し、住民の血液中のPFASの値が、各国やその他の地域と比較してどの程度高いのか、また健康影響の可能性が出ていないのかについて調査しました。

調査の概要

 国分寺市と府中市の市民グループの協力で調査協力者を募集し、国分寺市の本町クリニックの杉井吉彦医師に採血を依頼し、分析機関 いであ株式会社 に分析を依頼しました。調査にあたっては、熊本学園大学に倫理審査を申請し、許可を得たうえで実施しました。

 調査対象者は、長年にわたる水道水の浄水のPFAS汚染が判明している府中武蔵台浄水所および東恋ヶ窪浄水所の給水地域(府中市、国分寺市)の住民。血液検査では、PFASの中でも汚染度が高いPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸) およびPFOA(パーフルオロオクタン酸)、および PFOS の代替物質である PFHxS〈パーフルオロヘキサンスルホン酸〉 の濃度を測定しました。

 採血時に、年齢、性別、居住歴(住所と居住年数)、水道利用実績、職歴(職場と勤務年数)、ファストフードの利用実績を自記式のアンケートで記入していただきました。

 採血は2020年8月30日(日)に実施し、対象地域の居住者22名(男性1名、女性21名)と、対照群として非対象地域の居住者4名(男性1名、女性3名)から採血し、約2週間後に検査結果が判明。結果の公表に先立って、9月27(日)に調査協力者と関係者向けの報告会を実施しました。

何が分かったか

 日本では、一般人の体内での有害化学物質汚染度を調べるバイオモニタリング調査はほとんど行われていないので、比較することのできるデータはごくわずかです。環境省が実施している「化学物質の人へのばく露量モニタリング調査」(以下「環境省調査」)があり、そこでは、2011年から2017年にかけて406人を対象に血液中のPFOSとPFOA濃度が測定されています。またPFHxSについては320人を対象に測定されています。

これらの環境省調査での血液中濃度と比べると、PFOSに関しては府中市、国分寺市居住者の平均値は1.5倍から2倍高い値でした。PFOA濃度の平均値は若干高めでしたがそれほどの差はありませんでした。代替物質であるPFHxSの濃度は、府中市、国分寺市居住者の両方で、27~29倍と大幅に高い値を示しました。なおPFHxSはPFOS, PFOAに続いて、2022年に新たにストックホルム条約で禁止措置に決まった物質です。

 また健康影響の可能性については、ドイツが血液中のPFOSとPFOAの濃度についてガイドライン値を設定しています。そこではこの値以上であれば、健康影響が起こる可能性が発生するため、医師の診療を受け、早急にばく露を減らす措置が必要とされる値としてPFOSで20ng/mL、PFOAで10ng/mLと設定されています。今回の調査ではPFOSで5名、PFOAで1名がドイツのガイドライン値を超えていました。

 またドイツのガイドライン値は妊娠可能な年齢の女性に対しては、その半分の値(PFOSで10ng/mL、POFAで5ng/mL)が設定されています。今回の調査では、妊娠中の女性はおられませんでしたが、府中武蔵台浄水所および東恋ヶ窪浄水所の給水地域の妊娠可能な女性への調査が必要です。

JEPAの提言

 今回の調査結果を元に、JEPAでは、環境省と東京都に対して、以下のような提言を行ないました。しかしながら、環境省は「汚染地を所管する東京都の仕事」と、東京都は「国(環境省)が先に実施すべき」と責任の押し付け合いをするばかりで、主体的に提言を実行しようとする様子は見られません。

  1. 多摩地域の住民を対象にした大規模な PFOS・PFOA を含む有機フッ素化合物の血中濃度検査及び健康調査をすみやかに実施すること。妊婦・子どもが血液検査を受けられる体制を創設すること
  2. 汚染地下水の飲用中止を徹底すること
    水道水源としての汚染地下水の採取は中止されましたが、個人の飲用井戸や災害用井戸、専用水道などでは依然として汚染された地下水が使用され、飲用に供されている可能性があります。これらについても、早急に調査のうえ、水道水質基準に適合しないものについては即時に飲用禁止等の措置を講じる必要があります。
  3. 汚染原因の調査と汚染の浄化に取り組むこと
    汚染地下水の飲用を中止することは当然ですが、汚染された地下水をそのまま放置しておいてよいという訳ではありません。汚染原因を調査し、その原因を究明し、原因を遮断するため必要な対策を講じることが求められます。さらに、清浄な地下水と健全な生態系保全の観点から、汚染された地下水の浄化の取組みが必要不可欠であると考えます。

諸外国の動き

 その後、2022年6月にはアメリカでは環境保護庁(EPA)が、PFOSとPFOAの水道水での生涯摂取勧告値を、従来のPFOSとPFOAの合計値で70ng/Lから、PFOAでは0.004ng/L、PFOSでは0.02ng/Lに見直したことを発表しました。従来の3000分の1のレベルになります。

 また欧州連合では、4700種類以上のPFASを一つのグループとして原則禁止にする方向での検討を始めています。

日本でもPFAS規制について早急な対応が求められています。