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PFASピーファス(有機フッ素化合物)汚染 – 環境と人体を蝕む「永遠の化学物質」の規制に向けて

多様な毒性と健康リスク

PFASにばく露すると免疫力が低下する!

約4700種もあるPFASの毒性はほとんどわかっていませんが、PFOS、PFOAについては、近年の研究から、以下のような毒性が明らかになってきました。

  1. 甲状腺の疾患や異常、甲状腺ホルモンや性ホルモンな ど、環境ホルモンの影響も疑われている
  2. 発がん性:腎臓がん、精巣がん、乳がんなど
  3. 生殖毒性:不妊、低出生体重児の増加など
  4. 免疫力の低下:ワクチンへの反応が減少
  5. 肝臓への毒性:肝疾患との関連
  6. 血中コレステロール値の上昇
  7. 潰瘍性大腸炎

実際に人間について報告されている疾患や健康障害は、多岐にわたっています。また急性毒性については、PFOS、PFOAなどPFASを含有する防水スプレーによる中毒例が、これまで多数報告されています。また妊娠中PFOAばく露による子どもの先天異常(顔面奇形)については、日常レベルのばく露では確認されていませんが、工場労働者など高濃度ばく露では可能性があり、映画『ダーク・ウォーターズ—巨大企業が恐れた男』の映像は衝撃的です。PFASは胎盤や血液脳関門を通過し、母乳中にも検出されることが明らかになっています。
PFOSやPFOAは難分解性・蓄積性からPOPs条約、化審法の規制物質になったものの、毒性が明らかになってきたのは、ここ数年のことです。健康影響の指針となる安全基準値(耐容一日摂取量)は、欧米において、この14年で約5000分の1と規制が強化されてきています。日本では2019年、PFOS、PFOAの耐容一日摂取量はそれぞれ20ng/kg/日、水道水質の管理目標値はPFOS、PFOA合わせて50ng/L以内(暫定)と設定されました。
また代替物質として使用されているPFHxS(パーフルオロヘキサンスルホン酸)などは炭素数が少なく安全性が高いと考えられましたが、同様の毒性が報告されています。さらに炭素数が少ないPFASでも、毒性報告があるので、約4700種のPFASにも何らかの毒性があると考えられますが、これらをひとつひとつ明らかにしていくのは膨大な時間がかかり、現実的ではありません。欧米諸国では、個別物質ごとではなく、PFAS全体を対象とした規制の動きが進められています。日本でもこのような規制が求められています。

PFASは胎児や子どもの発達を脅かす

PFASは多様な毒性をもつことがわかってきましたが、では私たちはPFASをどれくらい取り込んでいるのでしょうか。私たちにどれだけの健康上の危険性(リスク)があるのでしょうか。
リスクとは、一般的には将来起こる危険性という意味ですが、化学物質のリスクは、その物質の毒性・有害性の程度と、ばく露量(摂取量)の多さで決まります。例えばドイツでは、血中のPFASの濃度が、PFOS 20ng/ml、PFOA10ng/mlを超えた場合は健康に影響を及ぼす可能性があるとし、至急低減策をとるよう提言しています。しかし、日本ではそのような安全基準値は定められていません。健康へのリスクは、私たち日本人がPFASにどれだけばく露しているのかが問題になりますが、残念ながら、日本では全ての年齢層に対応した継続的なばく露調査(バイオモニタリング)が制度化されていません。
ただし、環境省では、2011年から2016年度まで、小規模ながらPFASを含んだ「化学物質の人へのばく露量モニタリング調査」を実施し、結果を公開しています。2017年の資料(http://www.env.go.jp/chemi/kenkou/monitoring.html)によれば、PFOSやPFOAは検査した全ての人で検出され、それ以外のPFASも微量ながら高率に検出されています。ところが、2016年以降調査は中止された状態です。また、環境省では、環境中の有害化学物質の子どもへの影響についての全国調査(エコチル調査)を実施中で、その項目にPFASが入っていますが、データはまだ公開されていません。
一方、北海道大学は、PFAS11種を含む有害化学物質が子どもの健康に影響を及ぼす疫学調査を実施してきました。その結果、胎児期のPFASのばく露は、子どもに低出生体重、甲状腺ホルモンや性ホルモンの異常、免疫力低下によるワクチンへの反応の減少、神経発達の遅延、脂質代謝異常などのリスクを上げる可能性があると報告しています。この北海道の疫学調査では、日常レベルの微量なばく露でも、健康にリスクがあることを示しています。
このように、現在の日本では、汚染された地下水、魚介類などの食品、食品の容器包装材などからのPFAS摂取が予測されますが、私たち国民がどれだけ取り込み、ばく露しているのかわかりません。従って、幅広い年齢層を対象にした継続的なバイオモニタリング制度を早期に導入することが求められています。
なお、虫歯予防のフッ素塗布は、無機フッ素(フッ化ナトリウム)で、炭素を含むPFASとは別物質です。無機フッ素も毒性があり、虫歯予防の効果はあるものの、おすすめしません。

世界におけるPFASの耐容一日摂取量の推移

PFASのばく露によるヒトへの毒性


*米国2016年はPFOS、PFOAを合わせた値
**EU2020年はPFOS、PFOA、PFNA、PFHxSを合わせた値
*、**以外はPFOAの耐容一日摂取量。
日本では耐容一日摂取量はPFOS、PFOAそれぞれ20ng/kg/日とされている。

日本人におけるPFASのばく露量

日本人は多種類のPFASにばく露している
環境省・日本人における化学物質のばく露量2017データより改変
2011−15年、406人(PFHxSは320人)健常人40−59歳の検査結果
●は中央値、上下のバーは最小値、最大値を示す